築地でええじゃないか! かわら版

築地市場が豊洲に移転して5年。卸売市場が支える消費者と商店街を守るため、東京都とゼネコンの再開発事業の動向をウォッチ。

築地の歩き方:場内編・「茶屋」で一休み?

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東京都が「豊洲市場魅力発信プロジェクト」として、ブロガー様ご招待を行ったことが話題になっています。
しかし、いわゆる営業力のあるブロガーさんでも、なかなか豊洲の魅力を発信するのは難しかったようですね。記事自体があまりアップされず、ツイッターやインスタもいまひとつ拡散されていない。文章はおそらく東京都が資料として渡したもののコピペ。
でも、それもムリはありません。からっぽの建物を見せて、そこに「築地の」鯛を持ってきて、豊洲について書け、というのも無理難題です。
 
それと、ブロガーの方たちの中で、築地を、あるいは他の市場でも見学したことがある人は、どれくらいいたのでしょうか。
 
今後ふたたびブロガー様ご招待があったとき、我こそは、と思っているみなさん、まずは築地を見てください。卸売市場は「魚屋さん」ではありません。入荷、卸、仲卸、買い付け、という物流の流れに注目してみると、「市場」に必要な機能が見えてくると思います。
 
今回は、築地にあって豊洲にないシステム「茶屋」をご紹介します。
 
茶屋、と聞くと、商売のあいまにほっと一息、お茶をすすることができる場所であろう、と、じゃあ豊洲にはきっとスタバかネスレ・アンバサダーが入るから大丈夫、などと思うかもしれません。築地でいえば愛養ですね。でも、その茶屋ではありません。
日本には「お茶屋」と呼ばれるものがいろんな場所にあります。伝統的には相撲の会場や歌舞伎の劇場。芸者さんがいるような街。あるいは墓地にもあったりします。別名「待合」。茶屋は、顧客に対して物やサービスの取りまとめを行う場所です。
たとえば相撲・歌舞伎のチケット取り扱いから、当日は贔屓筋が来たことを力士や役者に取り次ぐ、お弁当やおみやげの手配や、終演後は接待会場に案内する。これが茶屋です。芸者さんを呼ぶためのお座敷の確保や、墓地での花や掃除の手配など、「一括で取りまとめてくれる」業者が「茶屋」というわけです。
そういった「茶屋」では、当然お茶のサービスもありますが、残念ながら築地の「茶屋」はお茶はふるまいません。が、仕組みとしては同じ。買った品物を取りまとめてくれる場所です。百貨店などにもお得意様向けに、ありますね。

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築地市場では、買出し人が複数の仲卸から品物を買います。マグロはここ、エビはここ、と専門があり、青果からも仕入れます。青果卸だけではなく、細かい対応としては場内にこういう「つま」や卵焼きや、チーズ、お茶の店もあります(関連という名称になります)。
それをいったんまとめるのが「茶屋」。
築地を上から見ると、扇形のメインの建物から櫛型に伸びている掛け屋根だけの一角があります。ここに品物を運んでもらい、トラックをつけて荷物を積み込んだり、ここから搬送業者や仲卸がターレや台車(小車)で運んだり、あるいは買出し人が直接受け取ったりします。
これも、築地の物流をスムーズに支えている重要な場所です。場内に入れば、最初にぶつかるところですから、注目してみてください。

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で、豊洲にはこれがありません。
基本的に、どうやら豊洲の流通は一本線で想定されてみたいです。
 
築地なら入荷のトラックが荷物を広げる場所と、出荷のトラックに積み込むためのスペースが共用されていますが、入荷と出荷は時間がずれているから、問題ありません。ややこしい細かい買いまわりも、「茶屋」の仕組みが支えます。
しかし、豊洲では、卸棟と仲卸が別々で駐車場も別。入荷のトレーラーピットに、集中する時間は大渋滞して、そのあとは無駄になります。仲卸で買ったものは、それぞれの仲卸が別々に駐車場まで(例のヘアピンカーブのスロープで)運ぶ。青果が必要なら、いったん車を出して、広い道路をぐるりと回って青果の駐車場に入れてから、買う。
他の運用も、すべてこうした一本線で考えられています。画一的な品物を、モノを見ることもなく、大口業者がまとめ買いをするなら、この運用でいけるかもしれません。
 
築地市場の「茶屋」という古めかしい名前は、様々な種類のものが個別に取り扱われる、ヒューマンスケールでの物流の、伝統的な知恵の蓄積をいかにもあらわしているようではありませんか?