築地でええじゃないか! かわら版

築地市場が豊洲に移転して5年。卸売市場が支える消費者と商店街を守るため、東京都とゼネコンの再開発事業の動向をウォッチ。

他の市場はどんなとこ?/品川食肉市場

前日の告知となり恐縮ですが、5月18日のカジノ・シール投票はありません。お買い物ツアーは通常通り、13時から築地市場正門前です。
詳細・直前状況は右記「みずのやさんのTwitter」でご確認ください。

f:id:nowarsgnaction:20190518003649j:plain

ひさびさ!他の市場はどんなとこ?シリーズ、今回は都内唯一の食肉市場・中央卸売市場品川市場・芝浦と場(とじょう)をお届けします!

f:id:nowarsgnaction:20190518003844j:plain

と場と行っても、カジノ推進派にとって残念ながら、賭場ではありません!
品川市場の立地は品川駅すぐ。周辺はオフィスビルやタワマンの立ち並ぶ湾岸ゲートウェイ。築地同様、ディベロッパーが喉から手が出るほどほしい好立地では(そしてここも失っては日本の水産・畜産業は壊滅します)?と、心配になります。
が、現在は周囲の変貌をよそに静かに変わらぬ姿を保っているのが、この壁。

f:id:nowarsgnaction:20190518003948j:plain

実は品川市場は一般は完全立ち入り禁止(学校からの見学のみ)、写真も不可豊洲以上のほんとうの「閉鎖型」市場です。
 
それは、と場=屠場が併設されているから。
 
食肉(牛・豚)の多くは卸売市場に生体で搬入され(枝肉取引、輸入肉もあり)、場内の屠畜ラインで解体されて、検査を経て翌日に市場でセリにかけられます。
働く人たち(都の職員)は厳しい衛生管理を受け白衣・マスク・ヘルメット着用、施設内には消毒やエアカーテンを経ないと入ることはできません。搬入車両も当然厳密に管理。
 
「閉鎖型」といいながらエアシャッター開けっぱなしで作業したり屋外で荷捌きしている豊洲市場とは大違いです。もちろん品川は、コールドチェーン以外の何ものでもない。
 
品川市場が「閉鎖」しているのはもう一つ理由がありますが、それは後述。
 
まずは品川市場の歴史。江戸時代まで肉食文化が広まっていなかった日本で、食肉と場が必要となったのは、開国当時の外国人向け。
慶応3年(1867年)に白金に東京初のと場が作られます。
2年後の明治2年(1869年)には築地にも公営と場が開設。なんと築地は水産・青果より食肉が先だった!そもそも築地も港町、明治時代には築地ホテルがあり、外国人居住地区でもあったわけです。
最大6カ所まで増えたと場を、昭和11年(1936年)東京市営・芝浦と場に統合、2年後から東京市が屠畜業務を直営するようになります。
併設市場が開業するのはだいぶくだって昭和41年(1966年)。その後、現在地で市場・と場の機能が近代的に整備されてゆきます。
 
ちなみに食肉市場・と場は全国にどのくらいあるのか見てみると、北は仙台から、南は佐世保まで。関東地方は6カ所ありますが、千葉県にはなく埼玉県に2カ所。品川市場のお肉は、都内中心の流通のようです。
北は仙台から、というのが意外でしたが、国内最大の畜産地・北海道ではホクレンが運営する「家畜市場」があちこちにあるそうで、生産地市場は流通経路がちがうようです。
 
そんな品川市場で見学できるのは、正門から少し先の道路に面した食肉市場センタービル(事務所棟)6Fの「お肉の情報館」(10:00~18:00土日祝日休み)のみ。予約不要ですが、名前を書いて入ります。
中は広い一室で、中央に巨大な枝肉の実物大模型、牛の皮(と場で解体した牛豚は、食用だけでなく皮革や医薬品用にも卸されます)など。ケース内にと畜に使う道具の実物、パネルや紙の資料、あとは自分でプログラムを選べるビデオ(機械が古い!)を見ることができます。
ここで真剣に学習すれば、畜産業から流通、市場取引、解体、お肉の調理方法(お店で配るようなレシピつきのパンフももらえます)、そして牛肉輸入自由化BSEなどのお肉を巡る諸問題(今問題のTPPやEPAの解説はない…)にけっこう詳しくなれます。特にビデオは、実際見学できないと場の作業を撮している貴重なもの。

f:id:nowarsgnaction:20190518004543j:plain

しかし、この展示施設さえも、撮影不可!豊洲市場のマグロ模型より立派な?枝肉模型くらい撮りたいなぁ、と思いますが、記念撮影スポットではないのです。
仕方ないので「築地でええじゃないか!かわら版」得意のイラストを描いてみました!もらった資料の裏にスケッチしたのを、あとで記憶で仕上げたので、こんな出来ですが…いかがでしょう?
 
豚の股鈎やフットカッターなどは、とにかく重たい動物を相手にしていることが実感できます。ちなみに牛は「大動物」豚は「小動物」と呼ばれ、別々のラインを流れます。
 
そして問題のパネル展示。
筆者は市場の継続性について気にしているので、畜肉の市場経由率はどうなのか、そのデータも出ていました。食肉もやはり年々市場経由率は落ちていますが、和牛や国産黒豚は変わらない傾向。つまり、高い肉は生体で消費地まで運ばれ、市場取引にかけられています。
しかし枝肉で輸入される輸入肉は今後も増えていく見込みで、景気も食糧自給率も下がり消費者が安い輸入肉しか食べられなくなる、そして国内生産者の経営も困難になることで、屠畜から解体、検査・評価、卸売を一環して行う市場の機能は危機にむかうわけです。水産や青果と同じ構造です。
 
さて、と場を閉鎖型にしているもう一つの理由。それは差別です。
屠畜・解体に対する差別意識はいまだに解消されておらず、お肉の情報館には品川市場に届いたヘイト文書なども展示されています。
それらは呆れるような内容ですが、ネットで「品川市場」を検索すると、誤解や偏見、あるいはタワマンのあるような品川でと畜(トサツと書く人が多い)を行わないでほしい、などの文言に簡単に行き当たります。タワマンの歴史など、と場の由緒に比べればはるかに浅いのですが。
 
よく言われることですが、ベジタリアンヴィーガン)が言うならまだわかります。もっとも動物を愛護して人間を差別するのもおかしな話ですね。
もしかしたら遠い外国で知らない誰かが「処理」した牛豚が冷凍されたものが市場を経由せず、スーパーで安売りされたり牛丼屋で提供されていれば、清潔で安心なので、神戸牛や松阪牛なんて穢らわしいとお思いなのかもしれませんね。
 
消費者が市場を嫌がるのは水産・青果にも見られることで、築地市場豊洲移転にあたって「市場は早朝深夜に交通量も多く、迷惑施設」と、住民は認識しているのか、と、懸念され、現に工事中や開場後も労働者の人がゆりかもめを利用することに「魚臭い」と、文句を言う人もいるようです。
 
もともとさらに差別が根強い食肉市場の移転は、逆に適地が見つからず容易ではないのか。あるいは「イメージダウン」としてディベロッパーの標的にされやすいのか。
TPPやTAG(日米"物品"相互協定)などで進む輸入肉による市場寡占、そして高輪ゲートウェイや築地をはじめとする湾岸再開発、世界的に深刻化している差別・ヘイト…
品川市場・芝浦と場の存続と、この市場が支える全国の畜産業の今後は、決して安穏とはしていられないと思われます。

f:id:nowarsgnaction:20190518005108j:plain

では、最後にお待ちかね、市場グルメ!
品川市場にも関連はありますが、包丁や白衣などのお店(帝国臓器など)が数軒あるだけで、一般は利用できません。
唯一入れるのが、「一休食堂」です。(6:00~15:00・日曜休み)
正門で警備員さんに声をかけて入れてもらいましょう。入ってすぐ左です。
 
ここはメニューの多さも話題となっていますが、もちろんボリューム満点でリーズナブルなお肉の定食も豊富で、近隣のオフィスからもスーツ姿の男女が連日訪れています。従って、12-13時は満席のことも。ただしメニュー提供は早いし大きなテーブルで席数も多いので、待ち時間はそれほど長くありません。
 
もっとも有名なのが、冒頭に写真を載せた煮込み定食880円。和牛頬肉煮込みとモツ煮汁、ごはん、海苔か玉子が選べます。
市場直送、おそらく都内でもっとも新鮮なモツが味わえます(品川市場に場外はありませんが品川駅付近にモツ煮や焼きトンの呑み屋街があるのが、都内二番目に新鮮なモツでしょう)。しっかり煮こまれた頬肉も柔らかく、肉の知識豊富なお店ならではの美味しさです。
ただし、働く人は連日だからか、野菜炒めや日替わりの魚定食のオーダーが多かった(水産市場の人たちはお肉が好き)。

f:id:nowarsgnaction:20190518005846j:plain

   (品川駅近くの呑み屋街・ランチタイム)

安くておいしくて駅近の一休食堂はグルメ投稿のブログなどにも頻出していますが、こういう記事にも「トサツをしている人たちと一緒で緊張」などという偏見が見られます。そもそも、市場で働く人はと場だけではなく、セリ人も検査員も事務員も買い出し人もいます。近隣のビジネスマンも食べています。
そして、と畜・解体の作業など、牛の顔面や臓物を火で炙って煮込んだものを口に入れ、歯で食い千切る消費者に比べれば、どれほどのことでしょう。
激しい言い方かもしれませんが、どんなに生き物の生命を奪うことから目をそらし、清潔なイメージで生産が見えない食品を望もうと、チューインガム以外の食べ物は完全に工場だけで作ることはできません
モノを食べるなら、その生産流通過程にいわれなき穢れを感じて見ないまま食べるのではなく、生き物が私たちの口に入る食べ物となるプロセスを意識する方が、よほど豊かではないでしょうか。消費者がそうしたプロセスを知ることができるのも、消費地市場が都会にあることのメリットではありませんか。
 
あらためて、生き物(動植物)や、生産や流通に関わる人たちに感謝して食べることの大切さを感じた食肉市場でした。
そういえば市場内に神社や供養碑はあるのか、知りたかったのですが、見学不可なのが残念でした。
 
おまけ。
もっと畜産のことを知りたい方は、東京大学総合研究博物館(本郷)へ。6月30日まで「家畜」展が開催中です(10:00~17:00月曜休み・無料)。

f:id:nowarsgnaction:20190518005614j:plain

**
引き続きこちらもよろしくお願いします。
 都庁に声を届けましょう
Send your Message to Tokyo Met-gov.
東京都的網站上発送信息
 
宛先はこちら。
 
FAX:03-5388-1233