築地でええじゃないか! かわら版

築地市場が豊洲に移転して5年。卸売市場が支える消費者と商店街を守るため、東京都とゼネコンの再開発事業の動向をウォッチ。

オリンピック遺跡を掘り起こせ! 築地と東京の「海」

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[歴史は繰り返す。一度は悲劇として、二度目は喜劇として]、では三度目は?悲喜劇、あるいは惨劇?三度目の正直、あるいは噓?

オリンピックは1940、1964、2020と三度も東京を襲った。オリンピックによる都市改造災害の痕跡はいま話題の「人新世」的な廃棄物の地層として東京の街なかで見ることができる。

40年、中止になった第一次オリンピックは都市改造には至らなかったが(競技場の計画地は駒沢)、同時に企画されてやはり中止になった二つのイベントがある。札幌冬季五輪(!)と、東京万博である。皇紀2600年の大はしゃぎ。万博の開催エリアは湾岸。築地「八紘一宇国旗掲揚塔から「勝ち鬨」橋をゲートに、月島と晴海(今回の選手村前に事務局棟を建てた)だった。

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(1940年万博敷地と2020大会の湾岸エリアを重ねてみる)

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先の64年第二次大会は湾岸の出番はなかった。しかしこの時期にも築地にはじまる湾岸都市計画がひそかに夢想されていたのだ。それは今回のアルマゲドンこと第三次/大惨事大会で、始まる前から「レガシー」として作られた悪夢の未来と重なって見える。

 

今の湾岸再開発は「世界都市博(1996年予定)」中止ではじけたウォーターフロント・バブルが、石原慎太郎による2016年五輪招致計画によってゾンビとなって甦ってきたものだ。第二次大会期の高度経済成長、そして80年代バブルの夢(と利権)よもう一度。

未開の埋め立て地に未来志向の「先の万博」的都市を作ろうとする東京都の妄想。石原は「古くて汚い」としてモダニズムの名建築:80年間東京の食を支えてきた中央卸売市場・築地市場の破壊を思いついた。信じられる?東京だけでなく全国の生産者・流通・消費者・観光客、世界に愛される築地を壊すなんて。しかも移転先の豊洲は軟弱地盤・汚染土壌の上に欠陥建築。

猪瀬・舛添のドタバタを経て登場した小池百合子は「築地は守る、豊洲は活かす」とか言って移転延期はしたものの、なんら問題を解決せず豊洲移転を強行。TOKYO2020にも同じ態度で、石原の計画を継いで湾岸エリアに大量の新設施設(6施設合計の維持費で毎年8億円赤字)やら使われなかった企業パビリオン2020FANPARKやらを作り、外苑・代々木エリア以上にバブリーな廃墟を拡げている。

 

そして築地市場である。大会中は選手移動のバスと組織委の車両基地とされ、同時に21年5月には警察・消防等向けのワクチン大規模接種センター、9月には酸素・医療ステーションに転用と広大な都有地をいいように使われている。しかし築地を壊した目的はそこではない

東京都の市場跡地「まちづくり方針(素案・19年)」には「国際交流ゾーン」だの「ボールルーム(舞踏会!鹿鳴館か!)を備えたラグジュアリーホテル」だの「新たな東京ブランドの創出」研究施設だのが、結局は高層ビルの形で詰め込まれている。

すでに「オリパラ関連経費」で予算をつける「まちづくり事業(都内の道路工事・再開発など)」として、今も遺る市場の船着き場と隅田川の埋め立て工事がはじまった。「水辺の顔づくりゾーン」なるテラス・船着き場になる模様。

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(まちづくり方針)

https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/toshi_saisei/data/saisei0802_15.pdf

 

妄想は止まらない。有明・台場・青海・海の森、オリパラ競技場乱立のベイエリアには「レガシー」としてとんでもない青写真が描かれているのだ。

21年4月東京都が策定した「東京ベイeSGプロジェクト」は、青海から海の森を新規に

埋め立て、「オリパラレガシー」スポーツ・娯楽拠点と、自動運転・ドローン・ロボット、さらには「空飛ぶ車」や空気ドーム(バブル?)など新技術の実験場を両立させる内容。笑えるので、ぜひ一瞥していただきたい。

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(人間中心の空間ってのがまずヤバい)

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(東京ベイeSG)

https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/04/23/documents/ press0423-04-01.pdf

 

 

実はこれとそっくりな夢を先の大会の折描いたのが、40年に岸体育館(旧)、64年に代々木競技場、70年万博お祭り広場を作った丹下健三だった。63年着工の築地祝橋・旧電通ビルを設計した丹下は、頼まれもしないのに「築地再開発計画」「東京計画1960」を立案。丹下の個人的な思考実験だったのかもしれないが、それは電通ビルを基点として「増殖するメタボリズム建築」構造体で支えられた海上都市が晴海、豊洲を経て木更津まで延びていく途方もない代物だった。

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      解体が進む築地一丁目(祝橋)の旧電通ビル(21年5月撮影)。

      三井不動産によって巨大再開発がおこなわれる。

(旧電通ビルwikipedia)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E9%80%9A%E3%83%86%E3%83%83%E3%82%AF%E6%9C%AC%E7%A4%BE%E3%83%93%E3%83%AB

(丹下事務所HP)

https://www.tangeweb.com/history/

(zeitgeist:丹下健三記事)

解体を待つ 丹下健三 の電通本社ビル~幻の築地再開発計画~ - zeitgeist

 

こうした未完のメガシティ計画は、丹下の師匠ル・コルビュジェのパリ(ヴォアザン計画1925:一部実現)や、ナチスの建築家シュペーアのベルリン(世界首都ゲルマニア1933:36年のオリンピア・スタジアムを擁す。道幅120mの中央道、凱旋門、高さ320mのパンテオンなどは実現していない)の先例がある。

(世界首都ゲルマニアwikipedia)

世界首都ゲルマニア - Wikipedia

 

 

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丹下は、バブル期の鈴木俊一知事と強いつながりを持ち、91年に東京都庁を手がけた人物である。単なる絵空事ではない証拠に、この計画にはレインボーブリッジや環状2号、そして東京ベイeSGの片鱗まで見てとれないだろうか。

オリンピック遺跡を掘り起こせ! そこにはかつての「夢の未来」が澱んで堆積している。

 

(「東京計画1960」と「東京ベイeSG」の2030年を重ねてみる)

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オリンピックと万博は都市の「夢と未来」をうたう。妄想じみた「明るい未来」のヴィジョンを信じる者たちによって巨大開発が進められる。私たちは強制的に悪夢の未来都市に追いやられていく。

 

三度の大戦、いや大会に翻弄され続けた築地市場(1935〜2018)こそがその遺跡である。築地市場は人が生きるための食を担ってきた。建物は壁を持たない軽やかな列柱構造で隅田川の風を取り込み、弧の内側の広場に入出荷する品物は日々流通してとどまることはない。近代技術の鉄筋コンクリでありながら、呼吸し代謝する市場は、東京2020よりもはるかに新しく美しい未来だった。

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ここに高層ビルが建ち、月島再開発や晴海選手村=都有地格安払い下げタワマン:晴海FLAGなどの高い壁が海からの風をはばむ。

私たち都民は海とも魚とも隔てられてしまった。東京の「海」とはアスリートも反吐をはいた台場の汚水の海なのか。「海の森」ボート競技場の波除けフロートに付着し、除去に1億4000万円を要する食べられもしない牡蠣なのか。

こんな「未来世紀トーキョー」にいきたいか?

 

 

 

 

(本稿は神奈川ヤスクニニュース:日本キリスト教団神奈川教区社会委員会ヤスクニ・天皇制問題小委員会会報のオリンピック特集のために執筆したものです。現在朗読動画も準備中!)

 

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