築地でええじゃないか! かわら版

築地市場が豊洲に移転して5年。卸売市場が支える消費者と商店街を守るため、東京都とゼネコンの再開発事業の動向をウォッチ。

「築地」が「移転」できるという幻想

前記事・土曜マルシェに引き続き、観光客にとっての豊洲新市場の状況についてのレポート、今回は6街区仲卸棟についてです。

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東京都は豊洲新市場の賑わいを強調しており、現在のところ、人数的には「観光客が殺到している」といってよい状態です。
ただし、土曜マルシェは盛り上がって売れ行きがすごい、とは言いがたいし、1月から始まった早朝のマグロのセリ見学(築地と違ってガラス越しのデッキから)は、応募倍率こそ抽選になりながら、当日蓋を開けてみると定員半数ほどがキャンセル、という状態です。そもそもゆりかもめの増便もされないまま、一般客の駐車場はなく、朝5時に豊洲新市場に来るのは至難の業です。
 
また、築地との最大の違いは、外国人観光客の少なさ。場内に入れなくなってからは、築地場外も外国人観光客が減少していますが、それでも場外市場の飲食店や築地ならではの食材は人を惹きつけています。
五輪を前に、インバウンドを打ち出している東京都。銀座でもスカイツリーでも、今や東京や全国の観光地は海外からの人気なしでは成り立たなくなっています。
だから豊洲も、といっても、海外の人には移転そのものが評判が悪い。
 
では、現在殺到して、飲食店に大行列している国内観光客にとって豊洲はどうなのでしょうか。
 
まず、ゆりかもめ・市場前駅を出て、みんな戸惑う。どっちに行けばいいか、どこまで歩けば目的地かがわからない。観光バスやゆりかもめ利用のガイドツアーで来る人も多いのですが、個人で来た人は、たいていどこで何をするのかわからずに困っています。
これは案内板などの不足も原因ですが、そもそも来た人たちが、ここに何があるのか知らない様子です。何を見に来たのかわかっていない。とりあえず新しく大きな施設ができたらしい、というだけ。
長い連絡通路を歩いていると、こんな声が。
 
「なんだかんだ言っても立派なものができたわね。お客さんもたくさん来てるから収入になるし」
 
こうした認識の人は少数ではありません。
市場の「お客さん」は、自分たちのような一般消費者ではなく、その収益は卸売で成り立つものだということを、市場にいるのに忘れている。
そして実際に来てみても、社会科見学でパネルの説明を受けるならともかく、豊洲で、卸売市場とは何をしているのか、見学コースと飲食店エリアから体感することはほぼ不可能です。
 
築地ではガイドツアーは禁止でしたし、見学者のための説明は「おさかな普及センター」くらいでした。
しかし、ただ中を歩いているだけで、活き活きとした市場の様子を感じ取ることが、誰でもできたのです。
仲卸では巨大なマグロが目の前で捌かれ、水槽の中にイセエビやアワビが動き、氷の箱の中にふだんは目にしないような多種類の魚介が並ぶ。そんなプロの現場を一般の人も間近で見ることができました。
 
豊洲では、延々歩いて仲卸棟の3Fに入り、「築地の写真」の前で記念写真が撮れるような通路の先にあるのが、このわずかな見学窓です。

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ここに来ても、これに気づかないで進んでしまう人もいる一方、築地に来たことがあって、仲卸を見ることを期待していた観光客からは「これだけですか?」と、警備員さんに質問が相次いでいました。
窓からのぞいていた人たちの感想は「何も見えないね」「入れないのかな」「通路狭い」「ターレがぶつかるらしいよ」「築地では買えたのに」など。特に「狭い」は、多くの人が驚いている様子でした。
 
それでは、築地と同様にうおがし横丁という名を残し、一般客も市場で買いものができる関連はどうでしょうか。
6街区仲卸棟4F、仲卸棟の見学コースからエスカレーターで上がっていくのが関連・物販店舗です。

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このエスカレーターがすでに「殺風景なデパートみたい」と、言われていますが、フロア全体も同じような通路が交差して見通しが悪く、なんとなく殺風景。
見通しが悪いのは築地のうおがし横丁でもそうだったのですが、違いはお店の開放感。築地の関連は店の前に空間があり、そこに平台を出して展開している店も多かった。
豊洲では、仲卸店舗の通路への「はみ出し禁止」の不合理なルールがあり、実状は崩壊していますが、関連ではまさに壁で仕切られた箱の中に店が収まっています。

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この風景を、みなさんのご存知のデパートやショッピングモールと比べてみてください。
ふつう、商店街というものは、なるべく仕切りの存在を消して、通路を歩いてくる人に商品をアピールし、近づいてみようという気にさせる、それこそ「賑わい」を感じさせるディスプレイをしています。
店をのぞいてまわる観光客も、手に購入品を持っている様子は少なく、「小分けのものとか少ない」「場外ならいろいろ買えるのに」などと、しどころがなく困っている人もいます。

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また、豊洲で象徴的なのが、この「はね鯛」のお弁当。
飲食店が高くて行列するので、市場の業者に人気がある、として業界紙で紹介されていましたが、観光客でもこれを買って、レンジで温めている人もいました。
どこで食べるのかわかりませんが、「コミュニケーションルーム」なる小さな休憩室がこのフロアにある他は、豊洲の「一番の目玉」である屋上は飲食禁止です。

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ゆいいつ行列ができているのが、玉子焼きの丸武と大定

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有名人の実家ということでメディアにも多く出ている丸武は、そもそも築地では場外のお店です。
大定も場内のほかに場外では丸武と同じ波除通りに店があり、今、築地でもこのエリアの玉子焼き店にはつねに行列ができています。

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結局、築地でも買えるものにしか人が集まらず、しかも、この店の雰囲気の違い。同じ店の同じ品物に並ぶにしても、築地場外にある「特別な感じ」が、豊洲にあるでしょうか。「お客さんいっぱい来ていて収入になる」と、いう実態は、100円の玉子焼き串の行列です。
 
いみじくも、若い女性が「これはこれで楽しいね。でも活気がない」と、喋っていました。
この矛盾した感想が、豊洲の関連の雰囲気をすべて表しているのではないでしょうか。
この方も含め、おそらく多くの人の結論は「もう来ない」
 
豊洲新市場は、築地の場内・場外の賑わいを「移転」しようとして、失敗しています。
それは場内と場外という稀有なつながりをもった街を、ビルの中に再現しようとしたからであり、伝統や文化が、場所に根ざしたものであることを無視したまま「移転」を強行しているからです。
そして、なによりも、観光客が「本質」である市場と接することができない。市場に来ても市場が見られず、味わえず。
 
飲食や買い物だけなら、ここよりも大規模だったり、目新しくオシャレな施設はいくらでもあります。
むしろ豊洲よりも、今ならまだ「市場」が味わえる、築地場外市場なら400店以上が活気をもった有機的な独特の街並みを形成している。豊洲新市場がつまらなかったからその足で場外に行った」という声が多いのも当然でしょう。
 
しかし、卸売市場を失って、「場内」のない「場外」となっている築地場外市場市場目当ての観光客の減少もあり、また、市場直結というプレゼンスを失って、これからどうなっていくのか。次回は築地場外のレポートです。
 
みなさんもぜひ場外の現状を見て歩き、以下の築地再開発についてのパブコメをお出しください。締め切りは2月21日です
 
 
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