築地でええじゃないか! かわら版

築地市場が豊洲に移転して5年。卸売市場が支える消費者と商店街を守るため、東京都とゼネコンの再開発事業の動向をウォッチ。

豊洲市場潜入レポート

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ツテあって、豊洲新市場の内部見学に潜り込みました!

先日の大雪でもあっさり止まったゆりかもめ。でも他に交通機関はありません。ちなみに有楽町線での豊洲駅からの乗り換えも、一回駅を出て、雨や雪なら傘をささないといけません。
時刻表を見ると始発が5:30。セリは5時からですが、どうするのかな。
しかも、ゆりかもめ:市場前駅直結、と言いながら、なんか遠い。駅からは屋根のある回廊を通っていくのですが、仲卸棟の手前に管理棟があり、それがけっこう長い。電車で来る買出し人には不親切。あと、市場内は自転車禁止らしい。青果棟には連絡通路もないので、車でも歩行者でも、一回出て買いまわりに行かないといけないんだけど、これは時間かかるでしょうね。

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今回は「見学コース」のアプローチから入る形だったのですが、内部の未完成ぶりに比べて、ここだけ細かいとこまで搬入済みなんですよね。こんな「インスタ映え」フォトスポットまで作っちゃって。
これって、何回も「都民見学会」をしているから、それ用なんだろうけど、本来の機能ではないところから先に整備されている。巨大マグロのオブジェまでありました。いったい、どっちを向いて作られている「市場」なのか。
この見学者ルートは、まるでオフィスビルのような内装。「トイレがきれい、ホテルみたい」と言った人もいるそうですが、ビジネスホテルクラスです。期待しないで。どうしてこれで坪単価220万円の建築なのか、理解に苦しみますが、実際に運用した場合、このエリアは市場機能とは別のメンテナンスをしないといけないであろうことも、気になりますね。
 
エスカレーターで4Fへ上がるとショッピングモール風のつくり。ここは「魚河岸横丁」という築地の関連業者(卵焼きとかチーズとかお茶の店、長靴や食器などを扱う)が入るところ。なぜか築地の場内にはない、テレビでおなじみの某有名人の実家である、場外の卵焼きの丸武が入っていました。某有名人が移転推進でしたよね。
 
そして1Fが仲卸。つくりは完全に碁盤目なので、築地に比べて動線が長い印象。

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これが仲卸のお店。けっこう広そうに見えますが、これは1.3m幅の1マスを.6マス使用している。1マスのお店は下写真。
一時はテレビでも「マグロが切れない」と報道されていたけど、すっかり忘れられた「狭小店舗」問題。

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さらに、「倉庫スペースができて便利ですよ」と、いわれてるのが、このロフト風のハシゴの上。ハシゴは急なので、荷物を持って上り下りできず、左の椅子みたいな形のエレベーターを使用しなくてはいけません。設備投資が高い、と業者さんが言ってたのが、これらのこと。

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そして、実際に見た仲卸さんが指摘した点は、この通路。築地の石畳ではなく、これはタイル。地盤が弱く、床の耐荷重があるからかもしれないですが(まずそれがダメ)、ターレががんがん走り回ることを考えると、不安。
それと、排水溝が浅い。築地の排水溝は、人が落ちるくらいの深さだそうで、魚のウロコやら内臓やらをばんばん流したら、これではすぐに詰まってしまう。
もっとも、このタイル床には海水が流せないし、活魚水槽の取水ができず、浄化装置を通した水を「買う」とかいう話になっているので、もう、なんか、この「魚市場」では、活魚をさばいたりするようなことはしないんじゃないのか。全体がそういう設計で作られているようにも見えます。
 
実際、日本の魚の消費形態は、年々冷凍や輸入が中心になり、丸魚を扱う鮮魚店は大幅に減り、スーパーで切り身や加工品を買う最終的な消費者レベルでは、それこそ「魚が切り身で泳いでいると思ってる」ような扱いとなりつつあります。
だから、築地のやり方は古いのだ、もっと単一商品を大量流通させる冷凍倉庫みたいな「市場」が必要だ、と考えられているのかもしれません。
現に、築地の豊洲移転と同じタイミングで進められている卸売市場法の改正(今国会提出)は、専門業者が必ず現物を扱う、という現在の市場の原則を撤廃しようとしています。 

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そう考えると、この大卸(荷受)棟のコールドチェーン化、つまり完全に冷蔵・冷凍庫の中で営業するという形態は、冷凍商品の大量流通向きなのかもしれません。近未来的な空間に見えますが、おうちの冷蔵庫を大きくしただけ、にも見えますね。

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荷受のトレーラーピットが「縦づけ」で、側面のウイングを開いて積み下ろしができない、という問題が指摘されていますが、鮮魚を扱わず、冷凍だけなら、ウイングを開ける必要はないわけです。もっとも、この車寄せでは、短時間に大量のトレーラーが着くと大混乱になること必至ですが。
 
この構造を目の当たりにした仲卸さんが言ってたことは「ここに来たら営業形態も働き方も変わる」「大手のスーパーとかと取引する業者だけしか生き残れない」ということです。
とはいえ、「大量流通」に対応できるように豊洲移転、という名目は、日本の魚の消費量が下がっていることと矛盾します。実際、そういう意味では築地だけではなく、日本の魚の流通全体が危機にあるわけですが。
豊洲で、魚の取扱量が増えるということは難しいのではないでしょうか。そして多様性と専門性だけが失われていく。
それは最初は、なんといってもお寿司屋さんや料亭の買出しを直撃するでしょう。もともと「切り身しか見たことない」消費者には、関係ないように思われるかもしれません。けれども、そうして食の選択肢が狭まっていくことは、いずれ私たちをも締め付けていくことになります。
 
豊洲は、築地とはまったく違う。
見た目とか、古いとか新しいとかだけではなく、流通のあり方そのものを変えるものです。そして私たちの食生活を変えるものです。
これは単に場所が変わる「移転」ではないのです。
 
市場で営業する人々の中では、今、移転容認(もはや推進とは言いがたい)と、反対で割れています。けれども、もしかしたら、最終的に判断すべきは、魚を食べる消費者が「自分の食べるものはどうあってほしいか」で、決める問題なのかもしれません。